皆さんは心理学というとどんなことを思いうかべますか?手相占い、血液型性格学、心理テスト、犯罪者の心理、カウンセリングなどを思い浮かべる人が多いようです。これらは、テレビや週刊誌、その他の大衆雑誌で取り上げられることの多い話題です。血液型性格学は日常的な会話でよく使われ、信じている人もいるようですが、学問的には否定されています。テレビの番組で人気の心理テストの多くは興味本位で遊びの部類に入るものです。犯罪者の心理やカウンセリングは確かに心理学に入っていますが、それは心理学の一部にすぎません。これらの情報は間違っていたり、偏ったものといわざるを得ません。

 さて、心理学は英語でpsychologyといいますが、語源的にはギリシャ語のpsyche(心)とlogos(学問)の組合わさったもので、"心の学問"という意味でした。ギリシャの昔から、人間とその心理についての関心は強く、様々な考え方が出されてきましたが、それらの多くは哲学的なものでした。現代の心理学につながる心理学の誕生は19世紀後半とされています。その後も、人間の心理についての研究がどうあるべきかについて、多くの論争を積み重ねてきました。その結果、現代の大多数の心理学者は心理学を"行動の科学"と定義しています。

 すなはち、科学的方法によって、行動を手がかりにして、その行動が、どのような条件のもとで起こるのかについての法則をあきらかにし、その法則を説明する理論をつくりあげます。その結果、行動を予測し、ひいては行動の制御を可能にすることを目指しています。

 ここで簡単に行動と書きましたが、狭い意味の行動だけでなく、客観的・観察可能なものとしての意識的経験の報告も含めて扱います。

 具体的な例をあげてみましょう。

 アメリカで、深夜若い女性が暴漢に襲われ、結局最後は殺されてしまうという事件がありました。この時、近くの多くの住民がその様子を目撃していたにもかかわらず、30分間、誰も助けに行かず 、警察への連絡もしなかったということが分かり、ショッキングなニュースとして伝えられ大きな反響を呼びました。

 そのことから、傍観者の数を変え援助行動の生起がどう変わるかについて、いろいろな場面での実験をおこなって調べました。その結果、「傍観者(知らない人どうし)の数が増えるほど、援助が起こる確率は下がる」ということが確認されました(法則性)。
 つぎに、どうしてそうなるのか知りたくなりますね。

 周囲に多くの人がいると、自分が助けなくても誰か他の人が助けるだろうと考えやすくなりますね。すなはち、"責任の分散"が起こるからではないかと考えられます。このことが確認されると、「多くの人がいたのに、誰も助けなかった」のではなく、「多くの人がいたから、責任分散が起こり結局だれも助けなかった」のだと自信をもって説明することができます。そして、知らない人どうしが集まっている都会などでは、似たようなことが起こるだろうと予測するでしょうし、責任の分散が起きにくいような工夫をすることによって、悲劇を少なくすることができるでしょう(制御)。

 人間の行動は非常に複雑です。したがって、法則、予測といっても自然科学の精度には及びません。例外もあります。こういう条件の時には「こういう行動をしがちだ」という表現の方が近いかもしれません。それも主観的印象によらず、客観的事実に基づく論理的な推論によって結論を導くのです。この際、統計学は有用な道具となります。

 心理学の扱う現象の範囲は広いので、数量でなく、定性的データを扱うため、あまり統計を使わない研究もありますが、できるだけ客観的に現象をとらえ、論理的な推論をおこなうという科学的態度は同じです。

 心理学の分野について、列挙してみましょう。知覚心理学、比較心理学、生理心理学、発達心理学、学習心理学、社会心理学、個人差心理学、臨床心理学、教育心理学、産業心理学、犯罪心理学などがよく使われる分類です。これらははっきりと区別できるものではなく、内容的にはお互いに関連していることも多いのです。そして次々と活発な研究が行われ、新しい分野も出現しています。

 さて、皆さんが描いていた、心理学のイメージと少しずれていたかもしれませんね。難しく、つまらないような感じがしたかもしれません。

 しかし、そんなことはありません。料理にたとえると、おいしい料理を作れるようになるには包丁の使い方、食材の選び方、調理の仕方、盛りつけ方などの基本の習得が必要ですね。そして、おいしい料理が出来たら感動しますね。

 心理学の勉強をし、研究をするのもそれに似ているところがあります。たとえば、"恋愛"というと胸ときめきますが、研究の対象としての"恋愛"の謎を科学的に料理し、新しい事実を発見をするのはやはり感動ものではないでしょうか。